プロダクト戦略を構造的に捉える

「良い戦略 悪い戦略」におけるカーネルを用いてプロダクト戦略を紐解く

Toru Yamaguchi a.k.a zigorou
15 min readDec 24, 2023
DALL-E先生が生成した画像ですw

ついにMediumデビューしました!株式会社タイミーで執行役員CPOを担当している山口こと@zigorouです。

このエントリーはTimee Advent Calendar 2023のトラックB、24日目のエントリーになります。(蛇足ですが 12月24日はクリスマスイブとして知られていますが、私の誕生日でもあります。)

今回はタイミー CPOとしてプロダクト戦略をどう捉えているかと、その運用をどのように行っていきたいと考えているかについて、自分の頭の整理も兼ねて、エントリーにして行きたいと思います。

そもそも戦略とは何か

ちょうど今月、LINEヤフーの川邊さんが以下のようなポストをしていました。

このポストの中で氏は戦略を、

「目的に向けて、モノゴトに優先順位を付け、リソースを傾斜分配する」に尽きるのかな、と。 https://twitter.com/dennotai/status/1733609183336100069

と表現しています。

またこのポストに呼応して安宅さん(Kaz Ataka)は次のようにポストしています。

失礼して少しテキストを整形してまとめると、

  • 事業環境を構造的に捉えた上で展開を先読みすること
  • 自社の強みを活かして競合優位性を生み出すこと
  • それらを実現するためのアクションプランを示すこと

の組み合わせが戦略の3要件と述べてます。

戦略については名著である、

が挙げられますが、この中で良い戦略の基本構造として

  • 診断
  • 基本方針
  • 行動

といった(著書ではカーネルと呼んでいる)を持っていると述べています。

それぞれ引用してみます。

診断

状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。

基本方針

診断で見つかった課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す。

行動

ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

Via: 良い戦略 悪い戦略 , 第5章 良い戦略の基本構造

奇しくも安宅さんの整理とほとんど同じ構成が、この著書の中でカーネルとして定義されています。(厳密に言うと、2番目の基本方針の部分が俯瞰的な視点からの戦略的優位性の探求を良しとしており、競合戦略のような競争に勝つことを最優先にするといったものとは一線を画しているので、少し異なります)

いずれにせよ、プロダクト戦略も同様のカーネルを持った構造から構成すべきで、プロダクト戦略=プロダクトロードマップというのはあまりに短絡的すぎます。良く言われる計画は戦略ではないという事を地で行っている形になってしまいます。

プロダクトビジョンや事業目標を戦略の目的に据える

プロダクト戦略のカーネルについて考えるまでに、戦略を何故立てるかについて考えるべきです。

事業戦略であればコーポレートミッションの実現した姿であるコーポレートビジョンがゴールだと言えると思います。

プロダクト戦略であれば、プロダクトビジョンでゴールが語れると良いと考えます。「良い戦略 悪い戦略」ではミッションやビジョンは抽象的で端的ではないため、ビジョンや事業目標を戦略として捉えるのは誤りであると言われていますが、戦略の行き着く先としてのゴールとして掲げるべきだと思います。

プロダクト戦略におけるカーネルを考える

このエントリーではプロダクト戦略をテーマにしているので、良いプロダクト戦略のカーネルを考えていきましょう。

プロダクト戦略における「診断」

まずは「状況」を知る事から始まります。

状況を知るための診断方法としては、Open Product Management Workflow (以下 OPMW と略します)におけるコンピタンス分析(Competence Analysis)や、競合分析(Competitive Analysis)手段としての SWOT 分析(SWOT Analysis)などが有用な手段になるでしょう。

Open Product Management Workflow (https://open-pmw.org/)
Open Product Management Workflow

OPMW の Strategic Product Management (PDF) から適宜ピックアップしていきます。

コンピタンス分析

コンピタンス分析を実施することで、

  • 独自の付加価値をマーケットに提供するために、企業や部門、プロダクトチームがどのような独自の能力を持っているかを知る
  • 長期的に競合と差別化出来る属性や、利益、付加価値を決める

といった事が出来るようになります。

ここで挙げた属性や利益、付加価値とは次のような観点が挙げられます。

  • イノベーション
  • プロダクトリーダーシップ
  • プロダクトの品質
  • 顧客との信頼関係
  • 専門知識
  • 物流
  • サービスとサポートの質
  • 価格リーダーシップ
  • プロダクトの選択肢
  • 経営ビジョン
  • 販売チャネル
  • etc…

これらの観点ごとに具体的には VRIO 分析のような手法で評価していく事になります。

大事な点はコンピタンス分析を行うことで何が「診断」出来るかと言えば、自社や自部門、プロダクトやサービスの、強みと弱みが診断出来ると言えます。

SWOT 分析

SWOT 分析は広く知られた分析手法で、内部環境(Strengths, Weakness)と外部環境(Opportunities, Threats)を分析する手法になります。(それぞれの頭文字を取って SWOT 分析です)

OPMW では SWOT 分析を拡張して、競合分析と組み合わせた拡張を行っていたりします。

内部環境についてはコンピテンス分析などによって「診断」されていた物とすると、外部環境はどのように「診断」すべきでしょうか。

Opportunity Solution Tree (OST) を育てていく

外部環境である機会(Opportunities)や脅威(Threats)は、これまでの探索や経験、学習によって蓄積されていく物です。

最近の Product Management 界隈で話題になっている Continuous Discovery Habits の中で Opportunity Solution Tree (OST) という物が出てきます。

OST はディスカバリーにおける構造の事で三階層の構成になっています。

  1. Outcomes
  2. Opportunities
  3. Solutions

ツリーなので次のような木構造を持っています。(下記の図を参照)

Opportunity Solution Tree : Visualize Your Thinking
Opportunity Solution Trees: Visualize Your Discovery to Stay Aligned and Drive Outcomes

この OST は最上位がアウトカム(この書籍だと、それぞれが望むビジネス価値を指します)になっているので、戦略的意図(ビルドトラップ本の概念)を達成するための木構造と言えます。

図中の黄緑色のエリアを Opportunity Space と呼び、黄色の部分を Solution Space と言います。

この Opportunity Space は、SWOT 分析における外部環境の Opportunities, Threats そのものだと考えて良いですし、Value Proposition で言うところの Pain, Gain そのものです。

従ってプロダクトマネージャーが日々の探索や実験によって得られた仮説が Opportunity としてストックされていく事が、プロダクト組織が良いプロダクト戦略を立案するために必要な、戦略のカーネルにおける「診断」を正しく行うための、大事な活動だと言えます。

ここでは幾つかの分析手法やそれを行う上でストックしていくべき Opportunity について言及しましたが、「診断」するには他にも参照すべき事柄は多々あります。マーケットのポテンシャルとセグメントの議論は当然外せませんし、これまでの営業活動実績なども参照すべきでしょう。

いずれにせよ様々な視点から状況を構造的に捉えつつも、問題の本質を捉える事が「診断」です。

そしてこの問題の本質は OST における Outcome に直接ぶら下がってるような Opportunity が該当する訳です。Opportunity はストックしていくタイミングでは断片的で、関連性や従属性を見出すことが出来ない場合が多いと思います。

ストックしていくだけでなく、関連付けを行い、共通化したり抽象化したりを繰り返すことで、問題の本質にありつけるのだと思います。

プロダクト戦略における「基本方針」

プロダクト戦略の「診断」から取り組むべき問題の本質を捉えることが出来たのであれば、大きな方向性と総合的な指針を示す「基本方針」を示す事が大事です。

「診断」によって、問題の本質が捉えられているのだとすれば、幾つかあるビジネス的なアウトカムの候補の中から何に取り組むべきかを選定し、まとめあげて大きな方向性として整理していく事が「基本方針」だと考えます。

プロダクト戦略における基本方針は、戦略的意図(ビルドトラップ本の概念)そのもので良いでしょう。

戦略的意図が持つべき構造

ここまで触れていた内容である程度、戦略的意図が持つべき構造が理解出来ると思います。

戦略的意図の前に、プロダクトの現在地点に対する「診断」というコンテキストが存在します。

このコンテキストを踏まえて、戦略的意図では、

  • 何をやるのか (課題解決に取り組むべき Opportunity)
  • 何故やるのか (診断における背景の中から優先的に選ばれた根拠の明示)
  • 誰のためにやるのか (顧客やマーケットの明示)

が表現されているべきでしょう。

また戦略的意図が達成された状態がビジネス上でどんな価値を生み出すかと、それを計測可能にするために、

  • ビジネス価値の分類
  • 定量的なゴール (ビジネスとしてのアウトプット目標)

を持つべきです。

またビジョンに近づく動きなのかどうかや、短期的に蓋然性高くアウトカムを出せそうかといったトレードオフなども分類すると良いと思います。

これは「ラディカル プロダクト シンキング」における Trade-off Priority という仕組みが上手く表現してくれると思います。

Trade-off Priority

大まかな指針なので、

  • どうやるのか (解決方法となる候補の例示)

は nice to have だと思います。

戦略的意図の優先順位づけ

戦略的意図も一定の構造化がされてきましたが、どのように優先度を決定すれば良いでしょうか。Prioritize Methods は世の中にたくさんありますが、私はビルドトラップ本で紹介されている Cost of Delay がわかりやすくシンプルで良いと思います。

また戦略的意図を打ち立てるタイミングでは、その戦略的意図の蓋然性は決して確実な物ではなく、不確実性を多分に孕んでいるでしょう。そう考えると複雑な Prioritize を行う事は、コストに見合わないと思います。

プロダクト戦略の「行動」

最後に基本方針を実現するための一貫性のある一連の「行動」ですが、プロダクト戦略においてはロードマップそのもので良いでしょう。

OPMW の Strategic Product Management (PDF) ではプロダクトロードマップにも幾つかの用途に分けて複数の種類のプロダクトロードマップを紹介しています。

  • 戦略ロードマップ
  • リソース(人・物・金と売上・利益)計画のための社内ロードマップ
  • 社外向けロードマップ

これらのロードマップを何に用いるかと、どのような行動が記載されるべきかについて考えていきたいと思います。

戦略ロードマップ

そもそもプロダクトマネジメントにおけるバリューストリームのようなものは、Discovery/Development/Delivery と言えると思います。

OPMW だとこれが Strategy/Technical/Go-To-Market(GTM)として表現されています。

実際に開発すること(Development/Technical)が決定され、マーケットに展開(Delivery/GTM)していく項目こそが、OST における Solution が確定している状態で、不確実性が Solution 確定前に比べると低くなっている「行動」だと思います。

Solution の検討前は Opportunity の状態なので、まだ不確実性が高く仮説検証されていない段階で、どのような Solution になるかは、まだ誰も分からない状態だと言えます。

戦略ロードマップは、どんな Opportunity をどのタイミングで取り組んでいくかを表した物で良いと考えます。

Strategic Roadmap の例 (Strategic Product Management)

粒度で言えばせいぜい Quotally 程度の細かさで良く、未来に行けば行くほど Annually で表現しても良いくらいです。

社内ロードマップ

社内ロードマップは用途が計画(人・物・金や売上・利益)策定に用いる基礎情報としての役割を担います。

従って、計画は半期や四半期で管理する事から、

  • リリースタイミング
  • プロダクトや機能名
  • 関連部署
  • 影響を与えるマーケット

など、計画立案に必要な情報が付随すると良いと思います。

外部ロードマップ

外部ロードマップは顧客やセールスとの円滑なコミュニケーションのために存在します。

どんなプロダクトがいつ頃リリースされるのかが分かれば良いので、大事な情報はマイルストーンになります。

また外部ロードマップでは顧客をどんな状態にしたいかという定性的な目標であるプロダクトイニシアチブ(ビルドトラップ本の概念)で表現されていると良いと思います。

開発し、リリースする事が決定している行動は具体的な Solution が確定しているので、一連の Solution が delivery されていく事で達成される顧客にたいするアウトカムが表現されると良いと思います。

ロードマップも所詮ドキュメントで、ただのアウトプット

3つのロードマップを紹介してみましたが、用途も違えば粒度や確度、具体性、時間軸など様々な点が異なります。

本当に正確性の高いロードマップはせいぜい半年くらいしか引けないと思いますし、割り込みも多いことから随時更新していかねばならない類のものです。

必要な事は一貫した「行動」が明示されることです。ロードマップもドキュメントなので用途に応じた最低限の物をメンテナンスしていくのが良いと思います。

終わりに

アドベントカレンダーなので、師走の忙しい中でえいやっと書いてしまったところもあり、ところどころ言葉足らずですが、戦略のカーネルといった構造を満たしていくプロセスがプロダクト戦略を打ち立てて行く事とも密接にリンクしているのが、何となく理解できたのではないでしょうか。

これを機会に気が向いたらエントリーを上げていこうかなと思います。

タイミーでは、このようなプロダクト戦略を軸にプロダクトマネジメントをしていこうとしています。

一緒にプロダクトづくりをしたい仲間を全方位的に募集しているので、興味のある方は採用サイトをご覧いただけると幸いです。

--

--

Toru Yamaguchi a.k.a zigorou
Toru Yamaguchi a.k.a zigorou

Written by Toru Yamaguchi a.k.a zigorou

株式会社タイミー執行役員CPO, 株式会社マギステルCEO です。

No responses yet